大阪地方裁判所 昭和24年(行)141号 判決
原告 財団法人朝連学園
被告 大阪府知事
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告が昭和二十四年十一月五日原告に対し、原告設置にかゝる別紙目録記載の学校についてした学校閉鎖命令はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因としてつぎのように述べた。
「原告は昭和二十四年四月二十八日主務官庁たる文部大臣の設立許可を受け、朝鮮人に対し小、中学校における義務教育の課程を施すことを目的とする財団法人であつて、同年三月一日監督庁たる被告の認可を受けて別紙目録記載の学校を設置経営してきたが、同年十一月五日文部大臣から右設立許可を取消されると同時に被告から右学校の閉鎖を命ぜられた。
しかし右学校閉鎖命令はつぎの二点において違法であるから取消さるべきである。
(一)、被告は原告に対し、文部大臣から原告法人の設立許可の取消があつたから原告の設置する学校の閉鎖を命ずる旨通達したが、学校の設置者たる財団法人の設立許可とその法人の設置する学校の設置の認可とは別個の行政処分であり、前者が取消されたからといつて後者が当然取消さるべきものではない。この関係を無視した右閉鎖命令は違法である。
(二)、被告のした右学校閉鎖命令が前提とする文部大臣の原告法人の設立許可の取消は違法且つ無効である。(イ)、文部大臣は原告に対し民法第七十一条によりその設立許可を取消す旨通告したが、民法第七十一条は、法人がその目的以外の事業をしたこと、設立の許可を得た条件に違反したこと、その他公益を害すべき行為をしたことの三つをその設立許可の取消の要件としているのであつて、右規定に基き取消処分をするにはそのいずれに該当するかを示さなければならない。これを示さない右取消処分は形式を具備しない無効のものである。(ロ)、民法第七十一条による取消は右三要件のいずれかに該当する場合でなければならないが、原告にはそのいずれにも該当する事実がない。
のみならず、原告の設置する別紙目録記載の学校は法令の規定や監督庁の命令に違反することなく授業を行つてきたのであつて、被告の昭和二十四年十月十九日附原告に対する通告に従い(イ)、学校、学校管理組合、原告法人学校関係一切のものゝ名称から旧朝連を想起させるような字句を削除するため財団法人朝連学園なる名称を財団法人大阪朝鮮学園と改称し、個々の学校及び学校管理組合もこれに準じて改称し、(ロ)、原告法人を旧朝連民青と無関係な法人として改組するため理事の総改選等の措置をとり、(ハ)、寄附行為の変更も逐一指示に従い作成して文部大臣宛変更認可の申請書を被告に提出したほか、同年十一月二日の期限までに指示事項に必要な一切の手続を履践したから右学校が閉鎖を命ぜられるべき理由はない。従つて被告のした右学校閉鎖命令は違法である。よつてその取消を求めるため本訴請求に及んだ。」と。
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として先ず「原告がその主張のような法人であること、原告の設置する別紙目録記載の学校のうち右目録記載の順序に従い朝連私立東成学園中学以下朝連私立柏原小学校までの二十四校につき設置の認可があつたこと、その主張のような法人設立許可の取消処分及び学校閉鎖命令があつたことは認める。
原告は右法人の設立許可の取消処分に対し東京地方裁判所にその取消を求める訴を提起し(東京地方裁判所昭和二十四年(行)第一〇七号事件)たが、昭和二十七年三月十九日原告の請求を棄却する旨の判決の言渡があり、この判決は同年四月五日の経過と共に確定したので、右取消処分及び原告法人の解散は確定し、原告法人は清算の目的の範囲内においてのみ存続することゝなつた。従つて原告はもはや学校教育の活動をすることはできないから本件学校閉鎖命令の取消を求める利益を有しない。」と述べ、本案につき「本件学校閉鎖命令が原告主張のような趣旨の文言を以てなされたことは認めるが、それは右処分をするに至つた契機ないし基盤を示したにすぎない。
右命令は文部大臣による原告法人設立許可の取消(その処分にも原告主張のような違法はない)を理由とするものでなく、学校教育法第十三条第一号及び第二号に該当するつぎのような事実の存在を理由としてされたものである。
(一)、原告の設置する前記学校は、(イ)、学校教育法第十八条、第二十一条、第四十条、同法施行規則第二十九条、第五十五条の規定に違反して文部大臣の検定又は認可を経た教科用図書、若しくは文部大臣が著作権を有する教科用図書を使用しないのみならず、正科として使用を認められていない朝鮮語図書を教科用に使用し、(ロ)、学校教育法第二十条、第三十八条、同法施行規則第二十五条、第五十五条の規定に違反して教科課程、教科内容及びその取扱について学習指導要領の基準によらず、(ハ)、学校教育法第三条同法施行規則第十五条の規定に違反して所定の表簿を備えなかつた。また
(二)、監督庁たる被告は昭和二十四年十月十九日原告に対し具体的に事項を指示して原告法人組織を改正すること等を命ずる通告をしたが原告はその指示を誠実に履践しなかつた。即ち原告は、(イ)、名称変更の指示に対し、原告法人の改称を申請したにすぎず、(ロ)、改組の指示に対し原告法人の役員を改選したが、改選後の理事十二名中五名、監事三名中一名は旧朝連の構成員であつたものであり、(ハ)、寄附行為変更の指示に対し旧理事長においてその申請をすべきを新理事がこれをし、(二)、学校教育法施行規則第二条に掲げる事項を記載した書類を提出せよとの指示に対してこれを提出しなかつた。そして右学校教育法第十三条に該当する事由は、昭和二十四年十一月五日本件学校閉鎖命令の通告と同時に大阪府総務部長から原告代表者に説明した。したがつて被告の右処分には形式的にも実質的にもなんら違法な点はないから原告の本訴請求は失当である。」と述べた。(証拠省略)
三、理 由
原告が昭和二十四年二月二十八日文部大臣から設立を許可された財団法人で朝鮮人に対し義務教育を施すことを目的とするものであること、原告が別紙目録記載の学校を設置経営し、右目録の順序に従い東成学園中学より朝連私立柏原小学校までの二十四校について同年三月一日被告から設置の認可があつたこと、同年十一月五日原告法人が文部大臣から設立許可を取消されたこと、同日被告が原告の設置する別紙目録記載の学校につき閉鎖を命じたことは当事者間に争がない。
被告は、原告法人は設立許可の取消により解散しもはや学校教育の活動をすることはできないから学校閉鎖命令の取消を求める利益はないと主張する。もとより法人が解散した場合にはその本来の目的たる活動を継続することはできなくなるけれども、清算の目的の範囲内の活動はできるのであるから、原告法人は現務の結了の過程としてはなおその設置した学校を経営することができると解するのが相当である。したがつて、本訴は訴の利益を欠き不適法であるとする被告の主張は採用しない。
そこで進んで本件学校閉鎖命令が取消さるべきものであるかどうかを判断しよう。(イ)、当裁判所が真正に成立したものと認める乙第十二号証の一ないし十七、第十四号証、第十六ないし第十八号証の各二によれば、原告が設置する別紙目録記載の学校のうち、朝連私立鶴橋小学校(以下学校名中「朝連私立」なる接頭語は省略する)の三年及び五年、福島小学校の一年ないし四年、堺小学校、岸和田小学校、布施小学校、朝鮮中学附属小学校及び寝屋川小学校の一年ないし六年の国語科、並びに朝鮮中学校の一年ないし三年の国語、数学及び理科の授業においては正規の教科書を使用したが、これらの学校の右以外の学年及び教科においては正規の教科書を使用せず、その余の諸校においては全然正規の教科書を使用しなかつたことが認められる。このように正規の教科書を使用しないのは教育基本法第二十一条、第四十条、第四十九条、同法施行規則第二十九条、第五十五条、第五十八条に違反する。(ロ)、前顕乙第十六ないし第十八号証の各二及び当裁判所が真正に成立したものと認める乙第一号証、第十八号証の三によれば、学習指導要領には小、中学校において履修すべき教科及び時間が定められているが、東成学園中学校一年B組では一週五時間あるべき国語科の時間がなく、社会科が所定の時間より三時間不足し、正課とすることのできない朝鮮語が正課として教授され、城東小学校五年では国語科が三時間不足し、五時間あるべき社会科が一時間しかなく、しかも社会科に入るべき地理、歴史がそのまま残つており、英語、朝鮮語が正課となつている。東淀川小学校では一年、六年の国語科の時間がなく、二年ないし五年の国語科の時間が三時間以上不足し、岸和田小学校では国語科の時間がなく、社会科が三時間以上不足し、布施小学校六年一組では国語科が三時間以上不足し、社会科のほかに地理、歴史がそのまま残つており、英語が正課になつている。朝鮮中学校二年C組では地理、歴史があり、習字、図画、工作、職業の各科の時間がなかつたことが認められる。かように学習指導要領を遵守しないのは学校教育法第二〇条、第三十八条、同法施行規則第二十五条、第五十五条に違反する。(ハ)、前顕乙第十八号証の三によれば、別紙目録記載の学校のうち布施小学校を除くその余の諸校においては学籍簿を備えていなかつたことが認められる。これは学校教育法第三条、同法施行規則第十五条に違反する。そしてかようにその設置経営する多数の学校において教育法令の違反が行われた事実に徴すれば、原告は故意に法令に違反したものと認めるのが相当である。原告は本件学校閉鎖命令の文言を根拠として、本件処分は法人の設立許可の取消を唯一の理由としてされたものであるとし、その不当を主張するが、たとえその文言が原告主張のように解されるとしても、学校閉鎖命令をするに当り理由を附すことは法の要求するところではないから、原告が前示のように故意に法令に違反した事実のある本件学校に対する閉鎖命令は結局学校教育法第十三条第一号による適法な処分であるといわなければならない。
よつて原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 浜本一夫 鈴木敏夫 石川恭)
(別紙目録省略)